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小児科医・水谷修紀先生の声 第3回

更新日:2021年12月24日




「この子にはこの子の世界がある」



小児科医・水谷修紀先生



「日本白血病研究基金」の創設者でもある、小児科医・水谷修紀先生。イギリス留学で体感した、現地の寄付文化について教えて頂きました。最終回です。



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すでにお話しましたが(第1回参照)、日本で小児科医として医療に携わる中、疲弊してしまった時期がありました。このままではやっていけないんじゃないか、と不安に思っていたときに科学雑誌『ネイチャー(nature)』の後ろのページに、イギリスの白血病研究所の求人案内を見つけたんです。現状をどうにしかしたいという気持ちから、恐る恐る連絡先であるM教授へ「小児白血病の研究をやらせてほしい」と手紙を書いてみました。それから、手紙のことも忘れていた半年後、突然M教授から返事が来たんです。「興味があるのなら、仕事をさせてみてもいい。とりあえず1年の予定で来てみないか」と。イギリスの白血病の⺠間財団「英国白血病研究基金」が奨学金を出してくれるということにもなり、私は当時それを「天の助け」と思い、しがみつきましたね。


イギリスに行って思いました、民間の力や寄付の文化がうまく機能しているなと。たとえば、週末の朝、スーパーに買い物に行くと、レジのところでボランティアの人たちが寄付集めをしているんです。映画を観に行くときもそうです。予告編の合間に基金の活動の紹介をし、募金箱がまわってくる。積極的に活動を行う人たちとそれに応える人たちが多くいるんです。

実際に私がお世話になった「英国白血病研究基金」は、子どもを白血病で亡くした親たちがこの病気を克服するために立ち上げたものです。イギリスにいる間の研究費と生活費を出してもらい、日本の収入が途絶えても研究に従事することができました。

この民間の財団は、病院の病棟を借りて、そこに教授や医師のポストをたくさん用意し、白血病患者をどんどん受け入れていたし、基礎研究の面でも研究所の一角を寄付講座のかたちで借り上げる活動をしていました。

日本で現場を離れて研究をしようと思っても、それをサポートするシステムがないんです。30〜40代の研究者は、家族や子どもを持っている人も少なくない。収入がなくなってしまうと、家族を養うことができないですよね。生活ができなくなってしまう。研究を諦めてしまう優秀な人たちを何人も見てきました。残念なことです。

授業料を払って大学院で研究をする日本に対して、アメリカでは給料が出ます。イギリスは国や財団から給付されます。難病を克服するためには日本にも、若者に研究に専念するための支援が必要だと思っていました。


10数年前の秋、ソプラノ歌手・中丸三千繪さんのリサイタルに出かけていき、その打ち上げパーティの席で青木チエさんと出会いました。初対面の方に声をかけることは得意ではないのですが、その日はアルコールの勢いもあって、思い切ってチエさんに声をかけ、会話の仲間入りを果たしました。会話の中で今の医療界が抱える数々の話題を取り上げ、「社会が医師を育てる気持ちを持たないと、医療は間もなく崩壊するだろう」というような話をした記憶があります。

その数か月後、チエさんの尽力によって行われたのが『ザ・レジェンド・チャリティプロアマトーナメント』です。プロ30名、著名人30名、一般参加者60名による、ゴルフのプロアマトーナメントを開催。その収益金はがん、白血病の子どもたちや東日本大震災で被災した子どもたちのために寄付をする、というものでした。私の話を覚えてくださったのに感動し、その素早い行動力にも脱帽しました。

おかげで、1992年に立ち上がった「日本白血病研究基金」や小児がん研究に少しずつ原資を増やしていくことができました。『ザ・レジェンド〜』は10年間の役目を終えたあとも、このカーネーションズの活動につないで頂き、大変感謝しています。


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子どもたちに接するときに気をつけているのは、「この子にはこの子の世界がある」ということ。大人がリードするんではなくって、大人が子どもの世界に入っていっていろいろな思いや言葉を共有するほうが、理解が進むと思います。

今は子どもたちの目標は、小さいうちから親の期待によって決められてしまっているようですね。学力向上や親の期待に応えることだけが目標でいいのでしょうか……。

先日、自閉症の子を持つ親御さんにこんなことを言いました。「親が変われば子どもも変わるよ」。お母さんはこの言葉が印象に残ったらしいんですね。

あなたはあなたの世界を大事にしていいんだって思えたら、子どもがどんどん変わった、と言うんです。

親の期待やこうなってほしいという想いに必ずしも応えられる子ばかりじゃない。

同じ場所から景色を見るように、一緒に生きていこうね、という姿勢が大切なんじゃないかと思っています。



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▼水谷先生が立ち上げられた「NPO法人白血病研究基金を育てる会」もご紹介させてください。



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