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石田慶子さんの声 第2回




安心はルールでは生まれない。子どもたちが許容し合う場所



まほうのだがしや チロル堂・石田慶子さん



奈良県生駒市にある「まほうのだがしや チロル堂」。オープン当初はやってくる子は少なかったのですが、ある日をさかいに子どもたちで満席に……! オーナー・石田慶子さんに、チロル堂のしくみ、想いを聞きました。第2回です。



―――


チロル堂のしくみ


チロル堂の入り口には、18歳以下の子どもだけが回すことができる「まほうのカプセル自販機」があります。

子どもたちはお店に入ったら、100円でカプセル自販機を回します。



カプセルには、チロル堂だけで使える通貨「チロル札」が入っています。

1チロルで100円分の駄菓子を買うことができます。



カプセルに入っている「チロル」は、 1枚とは限りません。

時には、2枚、3枚と入ってることもあります。

子どもたちの100円がそれ以上の価値になり、駄菓子だけでなく、カレーやポテトフライを食べられることも。それを、うれしい「まほう」と呼んでいます。



このしくみを思いついたのは、子どものためのアトリエ活動を行っているダダさん。「突然、アイデアが降りてきた」って言ってましたね。メンバー全員で「それいいね!」となり、導入してみることに。いま思うと、これがデザインの力なんですよね※。


※2022年、チロル堂はこの取り組みが認められ、グッドデザイン賞を受賞。




子どもたちの口コミ力


最初、子どもたちはおそるおそるでした。駄菓子だけを買いに来てすぐに帰っちゃう。

けれど、ある日の月曜日、チロル堂に行列ができたんです。

前の日の日曜日、生駒地域の多くの学校で運動会があったみたいなんです。そこで、「なあなあ、チロル堂って知ってる? 明日休みやんか、行かへん?」って、子どもたちの口コミが一斉に広がった。

その日のチロル堂は、あちこちの小中学校から子どもたちが集まって。自転車置場も満杯になりましたね。子どもの伝達網の早さに驚きました。以降、チロル堂は生駒中の子どもに知られる存在になりました。

いまは、多いときは1日で200人もの子どもたちが来ます。この狭いところに嘘だと思うじゃないですか、本当なんです(笑)。


春休みに、ふらりと来てみると子どもたちが足の踏み場もないくらいにひしめき合っていたんです。大体、学校も違うし、性別も違う。上の子がいばったり、声の大きい子が幅をきかすなんていうことがあるのかなと思っていたら、そんなことは全く起きないんです。

ここには、子どもたちだけで来る。連れてこられるわけじゃない。



「チロル堂」のカウンター。平日の15時頃だったが、すでに多くの子どもと大人でにぎわう。




自分が許されているから、他の人も許そうとする


わたしたちは、ここを運営するのに2つの約束を決めました。


①いいとわるいでジャッジをしない

(例:子ども同士のケンカの仲裁に入らない)

②ルールをつくらない

(例:ゲーム禁止とか、カレーを食べながらゲームをしない、と言わない)


大人が介入しすぎないようにしたんです。これもダダさんからの提案でした。

「ルールをつくらない」というのは、いいわるいを大人が決めていないことを表現するためです。そうすると、子どもたちは自分たちで秩序をつくり始めたんです。


たとえば、宿題をしている後ろでキーボードがガンガン鳴っていたとしても、文句を言わない。「自分が許されてるんやから、この子も許したらな」みたいな、暗黙の姿勢が生まれてくるんですよね。自分が許されているから、他の人も許そうとするんです。


春休みに、ぎゅうぎゅうにひしめき合いつづけられる子どもたちも、それぞれがもつ許容のなかにいるから、居心地が悪くないんだと思います。満員電車とはまったく違う環境なんです。




「違う」を認めて、待つ


ただ、わたし自身は「ジャッジをしない」とか「ルールをつくらない」という約束が、どうなっていくのか、全然想像ができなかった。わからなくって、こわかったほどです。

忍耐は必要でしたよ。自分と違うやりかたを認めて、待つ……。これが難しいんですよね。ひとは自分のタイミング、自分の見えてるものを解決したくなるじゃないですか。だけど、「なんで?」っていうやりかたを提案される。もはや、「間違ってない?」って思うこともありました。「属性や経験が違う」ってそういうことを生んじゃうんですよね。

唯一、心の支えにできたのは、提案をしてくれたダダさんを信頼できたこと。自分に見えないものを表現しようとしてるんだから、違うやり方を受け入れて、やるしかないと、決める。そして待つ……。

これを乗り越えられなかったら、いまのチロル堂は生まれてないって思います。子どもたちの過ごし方を見て、「これか」と腑に落ちるまで2年かかりました。

「まずは子どもたちの居場所になること」のための約束だったんですよね。


もうひとつ、わかったことがあります。チロル堂に立つ大人が、“ただのおばちゃん”、“ただのおねえちゃん、おにいちゃん”でよかったってことです。福祉業界のわたしが動いたら、スタッフに支援員さんや元・保育士さんという、「先生」にお願いしていたと思うんです。

それだと「教える人」と「教えられる人」ができちゃって、学校や塾の延長みたいな空間になってしまうんですよね。まさにジャッジする、される関係性ができちゃう。

いまのスタッフがチロル堂に立っていることで、子どもたちの暗黙の安心につながっているんじゃないかな。


福祉業界単体でやっていたら、絶対行きづまっていたなと思うんです。業界を超えたチームを組めたから、超えられた。

わたしの実感でもあるんですけど、これはどの業界でも同じことが言えると思いますよ。


次は、「誰でも集まれる子どもの居場所」になったチロル堂について、お話します。



大阪のスパイスカレーの名店による「ツキノワカレー」も食べられる(各1200円、コーヒー付き)。これを大人が食べて「チロる(寄付)」ことで、チロル堂を応援できるしくみ。





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第3回につづく



▼「チロル堂」をチロ(寄付)で支える“まほうつかい”募集中!



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