このオーケストラは、プロ・アマチュア・障がいの有無にかかわらず、活動趣旨に賛同する不特定多数の演奏家たちとそれを支えるスタッフから構成されている、スペシャルな管弦楽団。
開演前の舞台には、奏者たちの椅子がずらり。迫力を感じさせる佇まいです。
「すべての人々が与えられた命を輝いて活きることができる社会作りを目的としています」
幕が上がり、司会者がオーケストラのことをこう説明しました。奏者の中には、視覚障がいをもつ方もあるそうで、点字の楽譜を使って練習し、本番は曲をすべて暗譜で演奏しているとのこと。交響曲を含む4曲すべてを演奏されている団員も少なくなく、その技術と表現の精度の高さに驚きました。
かつて、ハンガリー国立交響楽団の音楽監督をつとめていた小林研一郎さんにとって、ハンガリーは第2のふるさと。1972年第1回ブタペスト国際指揮者コンクールで第一位と特別賞の同時受賞をなしとげています。今回のプログラムも、ハンガリーにゆかりのある曲が選ばれていました。
また、ハンガリーの隣に位置するウクライナの問題にも心を痛め、まっ先にチャリティコンサートを行ったマエストロ。
このコンサートでも、エントランスの各所に募金箱を設けウクライナへの支援金を募っていました。コンサートでの物販も原価を除く収益は、ウクライナの支援に充てられるとのこと。
筆者Yも、コロナで声を出せない代わりに「BRAVO(ブラボー)」と大きく描かれた手ぬぐいを購入。素晴らしい演奏を響かせる奏者のみなさんに向けて手ぬぐいをふりました。
会場内には、小林研一郎さん夫人の桜子さんがハンガリーにて、集まった支援金を直接現地・ウクライナの方々へ渡す活動の際の写真も展示されました。
最後の大曲、サン=サーンスの「交響曲第3番『オルガン付き』」を演奏する前に、小林研一郎さんがマイクを持ちました。
「ここにいる一人ひとりが、すでにすごいんです。僕はなにもしていません。ほら、こっちに行こうよと、ささやくだけなんです」
作曲者のサン=サーンスは、作曲家でありながらピアニストであり、オルガニストでもあり、哲学者でもありました。
「サン=サーンスは、この曲に注ぎ込めるすべてを注ぎ込んだ。この曲の大いなる響きの中には『祈り』が込められています。人間は、祈りの中で唱歌していく生き物であると思うんです
世界に誇るサントリーホールのオルガンの響きと、126名によるオーケストラの音……。読者の皆様に想像していただくことにします。音楽による愛の力がすこしでも届きますように。
これだけのエネルギーの塊であるコンサートを83回も続けている「炎のマエストロ」小林研一郎さん、今後の活動も追いつづけたいと思います。
「コバケンとその仲間たちオーケストラ 第83回コンサート」
プログラム:
コダーイ ガランタ舞曲
サン=サーンス 序奏とロンド・カプリチオーソ
サラサーテ ツィゴイネルワイゼン
サン=サーンス 交響曲第3番「オルガン付き」